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国際学力調査の問題を実際に見てみた

2000年度のPISAの「科学的思考」に関する問題を1題、実際にやってみた。なかなか難しい問題である。この問題に答えられるような生徒を育てるにはどうしたらいいのか、検討した。

◆次の課題文を読んで、以下の問に答えてください。

温室効果 - 事実かフィクションか

生物は、生きるためにエネルギーを必要としている。地球上で生命を維持するためのエネルギーは、太陽から得ている。太陽が宇宙空間にエネルギーを放射するのは、太陽が非常に高温だからである。このエネルギーのごく一部が地球に達している。

空気のない世界では温度変化が大きいが、地球の大気は地表をおおう防護カバーの働きをして、こうした温度変化を防いでいる。

太陽から地球へくる放射エネルギーのほとんどが地球の大気を通過する。地球はこのエネルギーの一部を吸収し、一部を地表から放射している。この放射エネルギーの一部は大気に吸収される。

その結果、地上の平均気温は、大気がない場合より高くなる。地球の大気は温室と同じ効果がある。「温室効果」というのはそのためである。

温室効果は20世紀を通じていっそう強まったと言われている。

地球の平均気温は確かに上昇している。新聞や雑誌には、二酸化炭素排出量の増加が20世紀における温暖化の主因であるとする記事がよく載っている。

太郎さんが、地球の平均気温と二酸化炭素排出量との間にどのような関係があるのか興味をもち、図書館で次のような二つのグラフを見つけました。

071227pisa2000sciencefigure01

太郎さんは、この二つのグラフから、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を出しました。

温室効果に関する問1

太郎さんの結論は、グラフのどのようなことを根拠にしていますか。

温室効果に関する問2

花子さんという別の生徒は、太郎さんの結論に反対しています。花子さんは、二つのグラフを比べて、グラフの一部に太郎さんの結論に反する部分があると言っています。

グラフの中で太郎さんの結論に反する部分を一つ示し、それについて説明してください。

温室効果に関する問3

太郎さんは、地球の平均気温が上昇したのは二酸化炭素排出量が増加したためであるという結論を主張しています。

しかし花子さんは、太郎さんの言うような結論を出すのはまだ早すぎると考えています。花子さんは、「この結論を受け入れる前に、温室効果に影響を及ぼす可能性のある他の要因が一定であることを確かめなければならない」と言っています。

花子さんが言おうとした要因を一つあげてください。


◆必要なもの

まず、この問題を解くために必要な知識と概念をリストアップしてみよう。

◎知識

  • エネルギー
  • (生命を)維持
  • (エネルギーを)放射
  • (エネルギーを)吸収
  • グラフの見方

◎概念

  • 二つのグラフの関係
  • 根拠、要因と結論、反論

◆私見

これは率直に言って、中3や高1にはかなりきつい。3問すべて正答した割合は1割どころか5%もいなかっただろう。その理由を以下に述べる。

◎問題文

エネルギーの概念は、生徒たちにとってはきわめて難しい。ものすごくとらえどころのない言葉だからである。にもかかわらず、問題文に何回も出てきている。おそらく8割近い生徒がこの時点でウンザリしているだろう。また、放射・吸収の概念も難しい。せめて「放っている」「取り込んでいる」ぐらいの訳語にすれば、まだ生徒たちもイメージできただろう。

まあしかし、温暖化の話題自体は多くの生徒が知っているので、問題の概要をとらえるぶんには大丈夫だろう。

◎2つのグラフの関係

これは現行の学習指導要領には載っていないし、おそらく今までの学習指導要領にも載っていなかったのではないかと思う。ただし、社会化の地理分野ではあるていどグラフについて習うようだ。

問題の難易度としては、1番目の問題は簡単だ。おそらく半分以上の生徒は答えることができるだろう。しかし2番目の問題は難しく、3番目に至っては超難問だ。

3番目の問題に正答としては、以下のようなものが考えられる:

  • 太陽の活動が一定ではないこと
  • 植物の光合成量は伐採量や大規模森林火災などで変わること
  • 熱の吸収特性を持った物質は二酸化炭素以外にも水蒸気などがあること

これは中3には難しすぎる。かろうじて2番目の答が思いつくかもしれない、というところか。


◆これからの教育

3番目の問題は難しすぎるので、2番の問題に答えることのできる生徒を育てるには、どのような事柄を教えなければならないか挙げてみよう。

2番の問題は、一言でいえば「グラフの分析」である。これは、理科ではほとんど扱わない。この話を社会化の先生にしたところ、驚かれた。「そういうのは理科でやるんじゃないの?」という反応である。

社会科では、昔は気候と産業の関係を教えていた。例えば北陸では冬に大雪が降るため、工場で働いたり伝統工芸が発達していたりする。このような自然現象と社会現象の関連がグラフなどを通して教えられていた。

今では時間数が限られているため、このようなことを教えるかどうかは各自の社会化の先生に任されている。先生によっては教えてくれる、という状況だ。

・・・やはり時間数を増やすのが一番手っ取り早い解決策ではある。しかし個人的には、もっと自然現象と社会現象を関連させて教えることができれば、時間数を増やさなくてもこのようなPISAの問題には対応できるのではないかと思う。

少なくとも、PISAの「科学的思考」の結果には理科だけでなく社会も関係している、という認識は必要だ。