ここはとある大学の研究室。
「先輩、CASEって何ですか?」
「それはね…」
物理学会には領域として物理教育があります。どんなことをやっているのか知るために、7月の17〜20日に開催された物理学会の物理教育領域の発表をすべて聞いてみました。
その際、専門用語が多くて閉口したので、そのたびに講演概要を調べてメモを作りました。できあがったメモは、現在の物理教育研究で使われている調査法やプログラムなどをあるていど網羅したものになったと思います。
他の研究者が使っている専門用語の意味を確認するときなどに使って頂ければ幸いです。
物理概念理解度調査
FCI
Force Concept Inventory
力学概念理解度調査
- 平面運動を含む
FCI は,学生の持つ誤概念研究に基づき,誤概念を
- 運動学,
- インペタス,
- 活性力,
- 作用・反作用のペア,
- 影響の連鎖,
- 運動へのその他の影響
の、6つのカテゴリーに分類している。
それぞれのカテゴリーはさらに詳細に,例えば 0.運動学は
- K1(位置と速度が区別できな い),
- K2(速度と加速度が区別できない),
- K3(速度ベクトルの合成ができない),
- K4(自分中心 の座標から観測してしまう)
等の誤概念項目に分類されている。
FCI 全 30 問は 5 択形式で,正答1 誤答4の選択肢により構成されているので,全問中 120 の誤答選択肢がある。
FMCE
Force and Motion Conceptual Evaluation
力学概念調査
FCIに運動(Motion)が加わったもの?
ECCE
Electric Circuits Concept Evaluation
FMCEの電気版
電気回路における典型的な誤概念を想定した45の問いで構成されている。個々の問いは,多肢選択方式の問題で,学生が自然に選びやすい典型的な誤概念が含まれる誤答が含まれており,解答が当て推量にならないように,ほとんどの問いにおいて6個ほどの選択肢が用意されている(一部,選択の理由を記述させる問いもある)
MIF
Motion Implies a Force
MIFとは「物体の運動方向には必ず力が働いている」という誤概念認識である。
物理学習姿勢など調査
CLASS
Colorado Learning Attitude about Science Survey
物理学習姿勢を見る
CLASS (Colorado Learning Attitudes about Science Survey)
生物用もある
CTSR
Lawson’s Classroom Test of Science Reasoning
物理を履修する全国の大学・高校生の科学的思考力の現状調査
ピアジェの考えに基づく思考操作段階を調査する手段
被験者は,正答数の多い順に
- 「形式的」
- 「過渡的」
- 「具体的」
操作の3つの段階に分けられる
SR
The Scientific Reasoning Test (SR) is a computerized, multiple-choice test developed by the JMU Center for Assessment and Research Studies (CARS) and faculty from science and mathematics domains.
It is designed to assess the scientific reasoning ability of students who have completed their general education requirements, and measures the following learning objectives:
Describe the methods of inquiry that lead to mathematical truth and scientific knowledge and be able to distinguish science from pseudoscience.
疑似科学と科学を見分けることができる
物理教育プログラム
CASE
Cognitive Acceleration through Science Education
英国で 1980 年代に開発された,科学教育を通して小・中学生の認知発達を加速させるプログラム
AL型授業プログラム
IDLs
Interactive Lecture Demonstrations
米国の物理教育において開発された AL 型授業である相互作用型授業のうち、「演示実験型」のもの
D.Sokoloffらが開発した,学習者の持つ誤概念に関する研究に基づく物理カリキュラム
Tutorial
米国の物理教育において開発された AL 型授業である相互作用型授業のうち、「演習型」のもの
教材・教具
Jupyter Notebook
ワイヤレスが使えない環境でも、ブラウザー・ベ ースで情報教育が実践できるシステム、「自立型情報ハブ」
Jupyter Notebook (読み方は「ジュパイター・ノートブック」または「ジュピター・ノートブック」) とは、ノートブックと呼ばれる形式で作成したプログラムを実行し、実行結果を記録しながら、データの分析作業を進めるためのツールです。
プログラムとその実行結果やその際のメモを簡単に作成、確認することができるため、自分自身の過去の作業内容の振り返りや、チームメンバーへ作業結果を共有する際に便利なほか、スクール形式での授業や研修などでの利用にも向いています。
Jupyter Notebook を使ってみよう – Python でデータサイエンス
SmartCart力学台車
センサを内蔵した力学台車です。Bluetooth(ver.4.2 以降)もしくは USB ケーブルを使用してコンピュータやタブレット端末などに接続し,測定データを表示, 解析することができます。
センサ:
- 力センサ
- 位置センサ
- 速度センサ
- 加速度センサ
アドバンシング物理
英国物理学会が1990年代に物理教育改革のための委員会を設置して議論を重ねてきた成果として作られた新しい物理のテキストの待望の翻訳.インターネットや携帯電話など,身近なITの発展などを題材にとりながら,物理の重要な基本的概念から最新の状況までを興味深く紹介する.図版や写真が豊富で,初めて学ぶ人にもイメージをつかみやすい.
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Modellus X
Modellusは無料で使用できるソフトウェアで,学生や教師(高等学校および大学)は数式を使ってインタラクティブに物理現象のモデル化やその解析を行うことができます。
標準的な数式によって記述された物体の運動のアニメーションを作成することができます。物体の運動を様々な形式で表現することができ,
- アニメーション,
- 物理量のグラフ化,
- 物理量の数値による整理
により運動を解析することができます。
Gilbertらによる面接事例法
1970年代,オズボーンが直面したのはワイカト大学の物理学教室において,通常のテストでは高得点であるにもかかわらず,物理の基本的な概念が十分理解できていない学生の実態だった。
オズボーンは,「子どもの科学」を明らかにするための有効な手段は,学習者の1つ1つの考え方に対し,価値づけをすることなくただひたすら彼らの意見に耳を傾けることであると指摘する。このような観点に基づき,オズボーンらは独自に調査問題を作成した。LISPでは,2種類の調査方法が開発された。
- 「事例面接法(IAI:interview-about-instances)」および
- 「事象面接法(IAE:interview-about-events)」
である。
例えばカードを見せ「これらの絵の中に植物はある?」,「植物って何?」といった植物概念の本質に関わる質問を行なった。
オズボーンらは,面接を成功させる鍵は質問の内容と実施時期にあると主張する。質問内容は「答えやすく,誘導的でなくて,本質的」である必要があった。
R. オズボーンの所説を中心にした構成主義に基づく理科教育論の特質と構造
授業法
PI
ピア・インストラクション
選択肢問題において生徒が議論を通して物理概念を獲得していくという,比較的導入しやすい相互作用型授業法
ジグソー法
問題演習グループ活動
- 自分の言葉で説明したり、
- 他人の説明に耳を傾けたり、
- わかろうとして自分の考えを変えたり
といった、一連の活動を繰り返すことで、考え方や学び方そのものが学べることがわかってきます。
(イラストが多くわかりやすい説明)
その他
Physics Education Group
米国の物理教育グループ
計量テキスト分析
計量的手法を用いてテキスト型データを整理または分析し、「内容分析」を行う方法
RTOP
アクティブラーニングの評価計測法
IRC
Item Response Curves
項目応答曲線
学生生徒の能力レベルごとの正答,誤答選択肢それぞれの回答率をグラフ化して分析する概念調査の評価方法
Morris らはこの IRC を用いてFCI を分析検討している
IRP
Item Response Patterns
項目正答率パターン
被検者を正答総数 S が一定値(ないしその近傍)に属する被検者について,それぞれの項目(設問)の正答率を縦軸に,項目(設問)番号を横軸にとって表示したもの
おわりに
専門用語が飛んでくるとまずビビってしまうものですが、意味を調べてみると「なんだ、そんなことか」となりますね。この用語集があなたの一助となれば幸いです。