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「社会に出たら理科は必要ない」は完全な誤解:データは語る

Photo by iMattSmart on Unsplash

未曾有の地震で水道もガスも止まった神戸で1ヶ月、ボランティアのテントで寝泊まりしました。

30年前のことです。京都に帰り給湯器のボタンを押すと即座にお湯が出てくるのを見て「文明って何なんだろう」と考えました。「物理教育の未来を創造する」フィール・フィジックス代表の植田達郎です。

はじめに

「社会に出たら物理なんて使わないでしょ?」 「化学式を覚えて何の意味があるんですか?」

高校生の多くが理科を「将来使わない知識の暗記」と捉えているのが現実です。しかし、この認識は根本的に間違っています。日本の産業構造を統計的に分析すると、理科的素養が社会の基盤を支えているということがわかります。

日本の就業構造

総務省の労働力調査によると、日本の就業者約7,000万人が集中する主要10産業は以下の通りです:

  1. 卸売業・小売業(1,000万人)

  2. 製造業(1,000万人)

  3. 医療・福祉(900万人)

  4. 建設業(500万人)

  5. 宿泊業・飲食サービス業(400万人)

  6. 運輸業・郵便業(400万人)

  7. 教育・学習支援業(300万人)

  8. 情報通信業(200万人)

  9. 学術研究・専門・技術サービス業(200万人)

  10. 生活関連サービス業・娯楽業(200万人)

合計すると、これらの産業だけで全就業者の約70% を占めます。

そしてこの10産業すべてで理科の知識が重要な役割を果たしています。

理科はどこにでもある

それでは具体的に見ていきましょう。注意していただきたいのは、以下の事柄は開発だけではなく企画・営業・運用などにも当てはまるということです。

卸売業・小売業

接客スキルや販売戦略が中心なので理科が表に出る機会は少ないですが、商品の保管や輸送には「物質の状態変化」や「熱の伝わり方」が関係します。例えば冷凍食品を扱う現場では「氷点下での水の性質」を知っていると品質管理がしやすいでしょう。

医療・福祉

実際に働くにはさらに専門的な医学・看護学の習得が必須になりますが、人体の仕組みや薬の作用は、中学校までの理科を基礎としています。「呼吸と血液循環」「消毒と微生物」などは医療現場の基盤です。

製造業

小学校理科レベルだけでは不十分で工学や技術教育が欠かせませんが、ものづくりの世界では「てこの原理」「電気回路」「物質の性質」などが直結します。 工場ラインや設計の現場で、理科実験で培った「観察・仮説・検証」の力が活きます。

建設業

実務では法規や高度な数学も求められますが、建物や道路を作るには「力の合成と分解」「地盤と水の浸透」「光や音の性質」などの理解が必要。地震国日本では「揺れに耐える構造」を考える際に物理の知識が不可欠です。

宿泊業・飲食サービス業

現場では接客や経営が優先されますが、調理や食品管理には「熱の伝わり方」「微生物の働き」が密接に関わります。 パンを発酵させる酵母菌、肉の加熱温度、冷蔵保存の仕組み。すべて理科の応用です。

運輸業・郵便業

免許やシステム運用の実務知識が優先されますが、自動車・飛行機・船の原理には「慣性」「摩擦」「燃焼」「天候」が関わります。 物流においても「エネルギー効率」を考える視点は理科そのものです。

教育・学習支援業

教師や教育サービスでは、科学的思考を子どもに伝えること自体が仕事です。 ここでは理科の知識がそのまま武器になります。

情報通信業

現場では情報科学やプログラミングの専門知識が中心になりますが、インターネットやスマホは「電気」「光」「音」「磁気」の物理現象に支えられています。 例えば光ファイバー通信は「光の屈折」の延長線上です。

学術研究・専門・技術サービス業

この分野に進むには大学以降での専門的な学びが欠かせませんが、研究や設計に携わる人は、仮説を立て、実験し、データを分析する力をフル活用します。 これはまさに理科教育の根幹です。

生活関連サービス業・娯楽業

多くは接客中心ですが、美容院で使う薬剤の化学的性質、アミューズメント施設での光や音の演出。 清掃業では「酸とアルカリ」の理解が洗剤の選び方に直結します。

全就業者の約70%を占める10産業すべてで理科の知識が重要な役割を果たしているのです。

なぜ伝わらないのか

では、なぜ多くの高校生が「理科は社会で役立たない」と感じるのでしょうか。

理由1:応用の見える化不足 教科書の内容と実社会での活用例の間にある「飛躍」が大きすぎます。

理由2:産業構造への理解不足 高校生の多くは、現代社会がどれほど科学技術に依存しているかを実感できていません。

理由3:「直接使う」ことへの偏重 公式をそのまま使う場面だけを「活用」だと狭く捉えすぎています。

つまり原因は教わる側(高校生)にあるのではなく、教える側(学校教育)にあるのです。

そして、これは探究活動・課題解決能力・情報活用能力・コミュニケーション能力とは関係ありません。単純に知識理解が足りていない。社会の現実を知らない。教えてられていないということです。

社会を知らないから「社会に出たら理科は必要ない」と考えるわけです。

理科教育の価値

「社会に出たら理科は必要ない」という考えは完全な誤解です。

現実は正反対です。現代社会は科学技術の上に成り立っており、意識していなくても私たちは理科的素養を活用しています

しかしこの誤解は、理科を学ばないことに対する生徒たちの言い訳ではありません。

彼らは知らないだけです。そして私たち教育者の使命は、この事実を生徒たちに伝えることです。理科は単なる受験科目ではなく、社会を維持・発展させるためのツールです。

このことを教えずに、果たして我々の国家が発展するでしょうか?

参考資料