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Googleオンラインレッスンから学ぶ、効果的なオンライン授業の作り方

先日参加したGoogleのオンラインレッスンは、オンライン授業として非常に完成度が高いものでした。授業全体の構成から、講師の話し方、スライドの見せ方、そして講師の熱意まで──これらの要素が有機的に組み合わさることで、1時間という限られた時間の中で最大限の学びを引き出すことができるということを実感しました。

この記事では、そのレッスンの何が良かったのかを具体的に振り返り、私たち教員が日々のオンライン授業に活かせるヒントを探っていきます。

理由・根拠:何が良かったのか

授業全体の設計:構成と時間配分

まず、授業の土台となる「全体設計」から見ていきましょう。

1. 変化を生む講師の構成

今回のレッスンで最初に印象的だったのは、スピーカーが一人だけではなく、最初と最後で入れ替わったり混じったりしたことです。1時間ずっと同じ人が話し続けるのではなく、途中で声が変わることで、聴く側に変化が生まれます。

特に効果的だったのが、最後のQ&Aセッションの構成です。参加者からの質問を司会の人が拾い、それを講師に投げるという形式をとっていました。これにより、単調になりがちなオンライン授業に「対話」の要素が加わり、集中力を最後まで保つことができました

なぜこれが重要かというと、オンライン授業は対面授業と比べて集中力が途切れやすいという特性があるからです。画面越しのコミュニケーションでは、教室にいるときのような「場の空気」を感じにくく、気づけば別のことを考えてしまったり、他のタブを開いてしまったりしがちです。そこに変化や対話を入れることで、受講者の注意を引き戻すことができるのです。

2. 絶妙な時間配分

この構成の工夫を支えていたのが、計算された時間配分でした。講師がずっと淀みなく喋り続けたのも良かった点です。途中で少し間が空くことはありましたが、約45分間、集中して話を聞くことができました。その後、少しブレイクを挟んでQ&Aに移るというスタイルは、集中力を維持させるにはちょうど良い長さでした。

これには科学的な裏付けがあります。人間の集中力の持続時間は一般的に40〜50分程度と言われています。大学の講義が90分であることが多いのは、45分×2コマという単位を基本としているからです。今回のレッスンは、この「集中できる時間」を意識した構成になっていたと言えます。

内容の伝え方:デモンストレーションの価値

授業の骨格ができたら、次は「どう内容を伝えるか」です。

3. ライブデモンストレーションの力

自分の知らないアプリケーションを実際に動かしているところを見るというのは、大変参考になりました。GoogleのImagenやVeo 3といったAI技術について、AI Studioを使った実演を通して理解することができました。

ここで重要なのは、「ライブ」であることの意味です。YouTubeの録画動画ではなく、ライブで見ることに価値があるのはなぜでしょうか。

その理由は、ライブには後から編集できないという「緊張感」があるからです。YouTubeの場合、失敗した部分はカットできますし、何度も撮り直しができるという安心感があります。しかし、ライブの場合はそういう安全性がありません。その緊張感の中で、デモを示す人がどういうふうにマウスを動かしたり、キーワードを打ち込んだりしているかを見ることができます。これらの「生の操作」自体が、価値のある情報として視聴者に受け止められるのです。

また、多くの人はアプリケーションのことをニュース記事などのテキスト情報で知りますが、テキストだけではなかなか頭に入ってきません。録画動画でも十分ではないことがあります。しかし、ライブで見ることで、「気にして見る」ことができるのです。

4. パーソナルな要素を含む題材選び

デモンストレーションをさらに効果的にしていたのが、講師自身のパーソナルな体験と結びついた題材でした。

たとえば、Imagenのデモでは、妻の祖母の写真をディテールアップするという内容でした。単なるサンプル画像ではなく、講師にとって意味のある写真を使うことで、そのデモには物語性が生まれます。また、写真の合成デモでバイクで走っている背景をバンガロールの風景に入れ替える際、講師が「最近バンガロールに行った」という話を添えていました。

なぜこれが効果的なのでしょうか。それは、技術的な説明に人間的なストーリーが加わることで、記憶に残りやすくなるからです。私たちは、抽象的な情報よりも、具体的で個人的なエピソードの方を覚えやすいという性質を持っています。教員として授業を組み立てる際も、単に「こういう技術があります」と説明するだけでなく、「私はこういう場面でこれを使ってみました」という体験談を交えることで、生徒の理解と記憶を助けることができます。

視覚的な工夫:画面設計とスライド

内容が固まったら、それを「どう見せるか」が重要になります。

5. 動くスライドで変化を作る

スライドに関して目立ったのは、動画を背景に使ったスライドが非常に多かったことです。これは個人的には非常に効果的だと感じました。

なぜ動画背景が効果的なのでしょうか。それは、オンラインの授業では変化がないと集中力を保つのが難しいからです。対面授業では、講師が動いたり、板書をしたり、教室内を歩き回ったりと、自然に視覚的な変化が生まれます。しかし、オンラインではそうした変化が限られています。スライドが常に動いている状態を作ることで、その変化を補うことができるのです。

6. 講師の顔を見せる配置

スライドはスライドで表示しながら、画面の左側にずっと講師の顔が見えていたのも良かった点です。やはり、話している人の顔が見えている方が、人は集中しやすくなります。理想を言えば、講師と目が合っているような状態が望ましいでしょう。

この「顔が見える」という要素は、前述のライブデモンストレーションの緊張感とも相まって、より一層の臨場感を生み出していました。

7. 情報量を考えたスライドレイアウト

スライドについては、一枚のスライドに入っている情報が多めだったという印象がありました。一般的には「一枚のスライドには100字まで」というルールもありますが、今回のレッスンでは、場合によっては3枚分のスライドを横に並べるレイアウトが使われていました。つまり、スライドの左3分の1が1枚目、真ん中3分の1が2枚目、右3分の1が3枚目という感じです。

これは一見すると「情報過多」に思えるかもしれません。しかし、関連する情報を並べて見せることで、全体像を把握しやすくなるという利点があります。特に、比較や対照を示したい場合には効果的です。

ただし、これが成功するのは、講師がそれぞれの部分を丁寧に説明し、視聴者の注意を適切に誘導できる場合に限られます。情報量が多いスライドを使う際は、「今、画面の左側を見てください」「次に真ん中の部分ですが」といった明確な指示が必要です。

講師の話し方:言葉で繋ぐ

視覚的な工夫と並んで重要なのが、講師の話し方です。

8. ゆっくり、間を取る話し方

講師の喋り方も素晴らしかったです。非常にゆっくり喋ってくれたので、内容を理解しながら聞くことができました。特に専門的な内容や新しい概念を扱う場合、早口で話されると理解が追いつきません。

また、適宜「間(ま)」が入っていたのも効果的でした。話の区切りで少し間を取ることで、聞き手は情報を整理する時間を持つことができます。オンラインでは、対面以上に「間」が重要になります。なぜなら、画面越しでは非言語的な情報(表情や身振り手振りなど)が伝わりにくいため、言葉と言葉の間に、理解のための時間を意識的に作る必要があるからです。

この「ゆっくり、間を取る」話し方は、前述の時間配分や構成の工夫と組み合わさることで、受講者が無理なくついていける授業を実現していました。

授業の核:講師の熱意

そして、これらすべての技術的な工夫を支えていたのが、講師の姿勢でした。

9. 熱意が伝わる授業

最後に、そして最も重要なこととして、講師が熱意を込めて話していたという点があります。

熱意は伝染します。講師が「この技術は本当に素晴らしいんです」「これを使えばこんなことができるんです」と目を輝かせながら話せば、それは画面越しであっても受講者に伝わります。逆に、どんなに優れた技術や内容であっても、講師が淡々と事務的に説明するだけでは、受講者の心は動きません。

特に新しい技術や複雑な概念を教える場合、講師自身がそれに対してどれだけ興味を持ち、探求しているかは、受講者にとっての「安心材料」になります。「この人は本当にこの分野に詳しいんだ」「この人から学べば間違いないんだ」という信頼感を生むのです。

この熱意があったからこそ、パーソナルな題材選びが活きてきますし、ゆっくりと丁寧に話す姿勢にも説得力が生まれます。すべての要素が、講師の熱意という土台の上に成り立っていたと言えるでしょう。

具体例:実践に活かすために

では、これらの要素を私たちの日々のオンライン授業にどう活かせるでしょうか。授業の準備から実施までの流れに沿って、具体的な提案をしてみます。

授業の設計段階 まず、45分を目安に、一つのまとまった説明を終えるように設計しましょう。50分授業であれば、40〜45分を説明に使い、残りの時間を質疑応答や振り返りに充てることができます。また、途中で生徒に問いかけたり、デモンストレーションを入れたりする「変化のポイント」をあらかじめ決めておきましょう。

題材の選び方 物理の授業であれば、「先週末、スキーに行ったときに摩擦力について考えました」とか、「私が学生の頃、この公式を使って実際に計算してみたら」といった個人的な体験談を交えられる題材を探してみましょう。教科書の例題をそのまま使うより、自分なりのストーリーを加えることで、生徒の興味を引くことができます。

スライドの作り方 可能であれば、動画や動くグラフィックをスライドに取り入れましょう。PowerPointやGoogle Slidesには簡単なアニメーション機能があります。また、画面共有の際は、小窓で自分の顔も表示するように設定しましょう。

デモンストレーション 実験や計算を録画ではなくライブで見せることで、「今、この瞬間に起きている」という臨場感を作ることができます。失敗することもあるかもしれませんが、それも含めて学びの一部です。「今からこの問題を一緒に解いてみます」と言って、実際に手を動かしながら説明するだけでも、生徒の集中度は変わります。

話し方の練習 特に重要なポイントや新しい概念を説明する際は、意識的にゆっくり話し、説明の後に数秒の間を取りましょう。生徒が理解し、メモを取る時間を作ることが大切です。最初は慣れないかもしれませんが、録画して自分の話し方を確認してみると、改善点が見えてきます。

熱意を持つ 最後に、自分が教えている内容に対して、改めて興味を持ち直してみましょう。「なぜこの単元を教えているのか」「この知識は生徒の人生にどう役立つのか」を考えることで、自然と熱意が生まれてきます。その熱意こそが、すべての技術的な工夫を意味あるものにしてくれます。

まとめ:再度の結論

効果的なオンライン授業を作るための要素は、決して特別なものではありません。授業全体の構成と時間配分から始まり、デモンストレーションの見せ方、パーソナルな題材選び、視覚的な工夫、そして話し方──これらすべてを、講師の熱意という核で繋ぎ合わせることで、画面越しであっても生徒の心に届く授業を作ることができます

今回のGoogleのオンラインレッスンから学んだ最も大きなことは、これらの要素は個別に存在するのではなく、互いに関連し合い、支え合っているということです。時間配分の工夫がデモンストレーションを活かし、視覚的な工夫が話し方を補い、そのすべてを講師の熱意が支えています。

明日からのオンライン授業で、ぜひ一つでも二つでも試してみてください。そして、それらの要素がどう繋がり、どう相乗効果を生むかを観察してみてください。生徒の反応が変わることに気づくはずです。