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≪動く物理≫【力学・仕事とエネルギー 3】(4分)そもそもなぜ「仕事」を考えるのか アシモフ『物理とは』より

動画のナレーションは以下を御覧ください。

何のために仕事を考えるのだろうか。仕事を考えることが、何かの役に立つのだろうか。 実は、私たちが普段利用している階段や自転車は、仕事の概念を使うとうまく説明できる。 しかし、最初は単純なケースから説明を始めよう。


摩擦のない斜面を決まった高さだけ上げる運動に要する仕事の量を、斜面の角度を変えながら比較してみよう。

最初は30°。 20[J]くらいで上がった。

次は45°。 これも20[J]くらいである。 押し上げる力の強さは大きくなったが、移動距離は小さくなった。 結果として仕事は変わらなかった。

次は60°。 これも20[J]くらい。

最後は90°。 垂直に押し上げるだけなので斜面からは離して押し上げる。 このときも20[J]くらい。


このように、摩擦のない斜面を決まった高さだけ上げる運動に要する仕事の量は、斜面の角度を変えても、同じである。 斜面の傾きがゆるやかであればあるほど、物体を動かす力は小さくなり、動かす距離は長くなる。 このように仕事について得をすることはない。 では、何のためにこんなことを考えるのだろうか?

こたえは次の通りである。 確かに直接、得をすることはない。 しかし、仕事の力と距離への分け方を変えることによって、得をすることがあるのである。


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250kgのものを2メートルの高さに持ち上げる場合、直接何も使わないで持ち上げようとしても、できないことである。 我々は250kgのものを1メートルでも1cmでも持ち上げることはできない。

しかし、ゆっくり動かすのなら、50kgのものを10メートル動かすのは難しいことではない。 こうして、直接には不可能だった仕事(250×2ジュール)を、50×10ジュールとすることによって、我々にも動かすことができる。 同じ仕事を、5kgの力で100メートルの距離を動かすことにしても良いが、少し長すぎる。

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もう一つ例をあげておくと、たとえば5階建ての建物の屋上からロープを吊り下げておいて、それをよじ登れと言われたとする。 これは、肉体的に優れている人でなければ、とてもできることではない。

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しかし、階段を使えば、普通の人が5階の屋上まで自分の重さを持ち上げることができる。 この階段は斜面の一つであり、動く距離を大きくして、持ち上げる力を小さくする働きをしている。

ときには、反対のこと、つまり力を大きくして距離を縮めることをするほうがよいこともある。

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例えば、自転車のベダルには非常に大きな力が加わる。 その力はうしろの車輪の中心近くに移り、車輪の矢(スポーク)が中心を支点とするテコの働きをして、ずっと小さい力が車輪のまわりに加わる。 力の大きさは小さくなるが、車輪の動く距離は大きくなる。そして、自転車は速く走ることができる。

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つまり、自転車は仕事を変えずに力を距離に変える機械なのである。 力を上手に距離に変える、良い機械であるといえる。 このため、自転車に乗った人は、歩いている人と同じように足の筋肉を使っているのに、歩いている人をたやすく追い抜いていけるのである。


まとめよう。力と距離への分け方を変えても、仕事の量は変わらない。 だが、仕事の量は変わらなくても、うまい仕組みを使って力と距離への分け方をコントロールすることで、 人は高いところにたやすく登ったり、歩くよりも速く移動することができるのである。 これが、仕事というものを考える理由である。