boy in orange shirt holding yellow fruit Photo by Lucia Macedo on Unsplash
働きすぎでクタクタになっているフィール・フィジックス代表の植田達郎です。
このニュースレターは弊社の活動にご協力いただいている皆様にお送りしています。今回は、人生を変えた理科授業授業の事例のご紹介です。
ラグナート・アナント・マセルカル(元インド科学技術研究評議会長官)
ラグナートは貧しかった少年時代、理科の授業で虫眼鏡を使って紙を燃やす実験に衝撃を受けました。太陽光を一点に集めるその体験から「強い意志と集中があれば夢を叶えられる」と悟り、苦境でも学業を続けて科学者になる決意を固めました。インドを代表する科学者となった彼は、小学校時代のこの実験が自身の進路を決定づけた転機だったと語っています。
2012年2月27日 / The Global Times(インドの新聞) / 新聞インタビュー
A・P・J・アブドゥル・カラム(元インド大統領・宇宙科学者)
10歳の時、担任の理科教師から「鳥はどう飛ぶのか」を学ぶ授業で海岸に連れて行ってもらいました。鳥が翼を羽ばたかせ方向転換する様子を直接観察し、「鳥の飛行」に強い感動を覚えた彼は、自分も「飛ぶこと」に人生を捧げようと決意します。教師の実演授業が与えてくれた使命感が、後にロケット開発に携わり大統領にまで至る夢の原動力になったと語っています。
2005年11月27日 / インド大統領府プレス(スピーチ原稿) / 本人演説記録
アニータ・ウォー(イリノイ大学化学専攻博士課程学生)
マサチューセッツ州ボストンで育った彼女は、小学校で毎週行われる理科実験に参加するうちに科学に夢中になりました。特に小学時代の理科教師が熱心にSTEM教育を推進し、週ごとの実験活動を通じて「どうしてこうなるの?」と問い続ける好奇心が刺激されたといいます。この手を動かす体験が科学への情熱の原点となり、やがて大学院でナノ粒子と生物界面の研究に打ち込むまでに至りました。
2023年5月1日 / イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校化学部ニュース / 大学ニュース記事
キャロリン・スパリー(カナダ工科大学助教授)
5年生のとき、歯ブラシと歯磨き粉の効果を調べた理科研究で市のサイエンスフェアで優勝し、「科学って面白いかも」と感じたのが始まりでした。幼い成功体験によって科学への自信と興味が芽生え、その後も身近な疑問を研究する楽しさを覚えました。現在では大学教授として、生体材料の研究に携わっていますが、小学生時代の科学実験コンテストでの勝利が自身の夢への大きな一歩になったと振り返っています。
2021年2月11日頃 / ICORD(ブリティッシュコロンビア大学)ウェブサイト / 研究所公式インタビュー
リサ・マリー・ハース(ドイツ開発エンジニア・宇宙飛行士候補)
子どもの頃から宇宙に憧れ、学校でも物理に強い興味を持っていました。ドイツの青少年科学コンテスト「ユーゲント・フォルシュト」に参加し、実験に打ち込んだことが、科学と本格的に触れ合った最初の経験になったと語ります。学校の特別科学クラスや科学コンテストで培った実験好きが高じて物理学を専攻し、やがて宇宙飛行士を目指す原動力になりました。
2017年4月19日 / Womanthology(英国の女性誌) / オンラインインタビュー記事
ルチ・グプタ(バーミンガム大学上級講師)
幼い頃、母が買ってくれた電磁石キット(電池や磁石、豆電球などのセット)で遊び倒し、物をいじる楽しさに目覚めました。また中学・高校の数学と物理の先生方が模範であり、大いに刺激を受けて科学者を志したとも語っています。家庭での電子工作体験と学校の良き教師との出会いが相まって、疾病診断デバイス開発に取り組む現在のキャリアに繋がりました。
2016年頃 / ChemBAM(バーミンガム大学発の科学教育サイト) / 本人執筆プロフィール
ヴァレリー・フォーキン(南カリフォルニア大学教授)
ソ連時代の中学で、化学の授業中に退屈すると先生は教室後方の実験室で自由に実験させてくれました。フォーキン少年は好奇心のまま試薬を持ち帰り、家で硫化水素(腐卵臭)や白燐の発火実験、果ては母親の香水を燃やす実験まで行ったとか。玄関先まで漏れる薬品の匂いにも両親は寛容で、この「好き勝手な実験の日々」が彼にとって科学の面白さを体得した原体験となりました。こうした少年時代の実験漬けの日々が、のちに新反応を創出する有機化学者への道を切り拓いたのです。
2020年8月(推定) / 南カリフォルニア大学サイト(特集記事) / 大学ニュース特集
ジル・ソーム(南カリフォルニア大学教授)
高校のAP生物の授業でサンフランシスコ湾に出て船上実習を行ったことが、ジル・ソームにとって決定的でした。調査用ボトルで海水を採取し、顕微鏡下でプランクトンを覗き込む――そんな体験に「言葉にできないけれど、これが職業になるという発想に心を打たれた」のだといいます。大学進学後、本格的な野外調査と最先端の研究に触れ、目に見えない微生物の世界にますます魅了されていきました。高校時代の海洋フィールド実習が、環境微生物学者としての夢の出発点になったのです。
2020年8月(推定) / 南カリフォルニア大学サイト(特集記事) / 大学ニュース特集
ラガヴェンドラ・ガダグカー(インド科学研究所 名誉教授)
6年生のときの理科の先生が科学への興味を掻き立ててくれ、8年生(中学2年)の生物の先生が生物学の道に進む決心を促してくれました。幼少期から虫やカエルが好きだった彼ですが、学校の熱心な先生方との出会いが決定打となり、「科学者になろう、しかも生物学者になろう」という夢が具体的に芽生えたと語っています。後にインドを代表する社会生物学者として活躍する彼の原点には、中学時代の教師の影響があったのです。
2017年7月20日 / Insectes Sociaux ブログ(科学者インタビュー) / オンラインインタビュー記事
メイ・ジェミソン(元NASA宇宙飛行士)
小学生の頃から星や科学に親しんだ彼女ですが、高校で取り組んだサイエンスプロジェクト(鎌状赤血球貧血の研究)で大きな飛躍がありました。課題研究の過程で病院の検査技師長と出会い、メンターとして指導を受ける幸運に恵まれたのです。その研究は市の科学コンテストで見事1位に輝き、若きジェミソンはますます科学への情熱を燃やしました。この成功体験と良き指導者との出会いが、自信となって工学・医学を修め、ついにはアメリカ初の黒人女性宇宙飛行士となる夢を実現させる原動力となりました。
不明 / National Women’s History Museum(米国) / 伝記記事
ニール・デグラス・タイソン(米国天体物理学者)
ニール・タイソンは11歳のとき、ニューヨークのハイデン・プラネタリウムで開かれていた子ども向け天文学教室に参加しました。そのとき初めて本物の天体望遠鏡を手にし、土星の環や星雲を自分の目で見た経験は「宇宙が自分に語りかけてくるよう」だったといいます。両親にねだって最初の望遠鏡を手に入れた彼は、自宅屋上で夜空を見上げては宇宙への夢を膨らませました。少年時代に博物館で味わった天体観測の感動が、後に著名な天体物理学者となる彼の情熱に火を付けたのです。
2013年(推定) / アメリカ自然史博物館サイト / 博物館インタビュー
いろいろな方々とお話ししていると「なんで理科実験にこだわるのですか?」と聞かれます。「とてもニッチですね」「もっと他のことに取り組んだ方がいいのでは?」とも。今回挙げたようなストーリーがその理由の一端なのかなと思います。私が現場を長く離れていたので見失っていただけかもしれません。がんばります!