世界が固唾を呑んで見守る米国大統領選まで、あと4日ですね。民主党副大統領候補ウォルツ氏はゲーム好きの元高校教師だそうで、大変親近感を感じているフィール・フィジックス代表の植田達郎です(政治的メッセージではありません!)。
今回は、あるボードゲームが学校教育で活用できるのではというご提案です。
要旨
東京大学大学院生が開発したボードゲーム「熱力学ワーカーズ」は、圧力と体積を操作して仕事を増やすルールを通じ、熱力学を楽しく学べるよう設計されています。私も小学生の息子と楽しんでプレイすることができました。物理教員が授業で活用することで、能動的な学習を促し、より高い学習効果が得られる可能性があります。
身近でない熱力学
熱力学は、私たちの身の回りにある様々な現象と密接に関係しています。例えば、エンジンの仕組みや冷蔵庫の原理など、熱力学の知識があれば、より深く理解することができます。しかし、従来の教科書や参考書では、熱力学を身近に感じさせるような工夫が不足しており、生徒たちは学習意欲を高めることが難しい状況です。
ボードゲームで学ぶ
東京大学大学院生の新井さんは、上記で述べた課題を解決するためのボードゲーム「熱力学ワーカーズ」を開発しました。このボードゲームは、熱力学の概念をゲームのルールに組み込むことで、プレイヤーが楽しみながら自然と熱力学を学べるように設計されています。
プレイヤーは、圧力と体積を操作して「仕事」を増やし、最初に80ジュール仕事をした人が勝ちとなります。このようなルールを通して、プレイヤーは、熱力学における重要な概念である「定積変化」「定圧変化」「定温変化」「仕事」について、体験的に理解することができます。
また、ゲームの盤面にはPVグラフが使用されており、定圧変化や定積変化などの操作を実際に行うことができます。これにより、プレイヤーは、熱力学の概念を視覚的に捉え、より深く理解することができます。
息子は大喜び
私は、小学校4年生の息子と実際にプレイしてみました。
ただし息子にとって熱力学の専門用語は難しいため、ゲームの設定を少し変更しました。
ゲームの目的を「エンジンの力で自動車を進めて先にゴールする」とし、「系」をエンジン内のシリンダーとし、「定積変化」を「溜める」、「定圧変化」を「使う」といった簡単な言葉に置き換えました。本当はエンジン内の仕事は定圧変化ではなく定温変化によって引き起こされますが、そこは特に説明しませんでした。
私の息子は理系的なものが好きなため、こうすることで楽しんで何回もゲームをすることができました。
「熱力学ワーカーズ」は、ゲームのルールを通して、熱力学の重要なポイントを自然と学べるように設計されています。 例えば、ゲームを有利に進めるためには、圧力を高めてから仕事をすることや、複数のシリンダーをうまく協調させることが重要となります。 これらのポイントは、熱力学を理解する上で非常に重要なポイントであり、ゲームを通して自然と学ぶことができました。
新井さんは、高校生の時に有機化学の反応経路をボードゲーム化して学習していた経験からこのボードゲームを生み出しました。従来の学習方法では、熱力学のような難しい概念を理解することは容易ではありませんでしたが、「熱力学ワーカーズ」のように、ゲームを通して楽しみながら学ぶことで、より効果的に学習することができる可能性があります。
ボードゲームで授業
物理教員の皆さんは、もちろん授業時間は限られていますが、短い時間の中でも生徒が楽しんで学習するようにこのボードゲームを授業に導入することができるでしょう。
例えば熱力学の基礎知識を教えた後、あらかじめ生徒の一人にルールを仕込んでおき、教室で生徒と「熱力学ワーカーズ」を10分ほどプレイすることで、学んだ知識を具体的なゲーム体験に結びつけることができます。
また、生徒をグループに分けてゲームをプレイさせるのも良いでしょう。協力しながら戦略を立て、議論を促します。さらには、興味を持った生徒グループに探究課題としてプレイさせ、内容や結果、考察などをまとめさせるのも良いと思います。
このようなボードゲームに不慣れな教員(むしろ慣れている方はほとんどいらっしゃらないのでは?)向けの「熱力学ワーカーズ」を活用した授業事例集や指導案を作成すれば、円滑な導入を支援することができるでしょう。
ボードゲーム「熱力学ワーカーズ」を授業で活用することで生徒たちの熱力学への興味関心を高め、能動的な学習を促してより高い学習効果が得られる可能性があります。遊びながら難解な概念を学べる特徴を活かし学校教育で活用することができれば、このような試みを他の単元や教科に発展させることもできるでしょう。
なお新井さんは12月15日の横浜物理サークル(YPC)例会(場所:株式会社ナリカ、15〜17時)に参加予定です。興味のある関係者の方は、ぜひいらしてください。彼のように高度に遊びと学びを両立すれば、いつか大統領選に出馬することも夢ではないかも?
本件に関して質問等ございましたら、お気軽にお寄せ下さい。みなさんの生の反応・意見が私たちの学びになっております。引き続き、みなさまのご支援・ご協力をよろしくお願いいたします!
参考資料
現役東大生が開発!新作ボードゲーム「熱力学ワーカーズ」:Campfire(クラファンサイト)
【理系ゲームズ第2作】「熱力学ワーカーズ」ルール説明動画 - YouTube