その日、私はある学校で、実験手帳の年間の予定表を開いていました。
日付がずらりと並んでいます。9/1、9/3、9/8……。
そのなかに、一箇所だけ、こう書いてありました。
「10点満点中の9点」
……誰が採点したんでしょうか。
そこは9月10日のはずです。「9/10」と出ていなければいけない場所です。それが、いつのまにか採点結果になっていました。
容疑者を洗う
6日後、腰を据えて調べました。
まず「点」という言葉で、アプリの中を端から端まで探しました。0件。
「満点」でも探しました。0件。
点数を表示するような部品はないか。ありません。
日付を勝手に書き換える仕掛けはないか。ありません。
容疑者が全員シロです。探偵小説なら、ここで「では、犯人は外にいる」となる場面です。
そして実際、そうでした。
犯人は、アプリの中にいなかった
犯人は、画面を映していたブラウザでした。良かれと思って、勝手に翻訳していたのです。
動機はこうです。
年間の予定表は、漢字と数字ばかりでできています。「9/10」「理科室」「ふりこ」。文章らしい文章が、ほとんどありません。しかも、その画面には「これは日本語のページです」と書いていませんでした。
ブラウザは、書いていないことは分かりません。だから中身を見て推測します。漢字と数字だけの表を見て、たぶん英語のページだろう、と判断しました。
英語の世界では「9/10」は日付ではありません。9 out of 10、つまり「10点満点中の9点」です。
ブラウザは、親切に訳してくれていたわけです。
札を2枚と、見張りを1つ
直し方は、拍子抜けするほど簡単でした。
1枚目の札。画面に「これは日本語のページです」と書く。
2枚目の札。日付のところに「ここは訳さないでください」と書く。
そして3つめ。年間の予定表をいじったときに、この2枚が剥がれていないかを自動で確かめる見張りを置きました。うっかり剥がしたら、その場で分かります。
その日のうちに直して、本番へ入れました。
ここからは、正直な話
じつは、真犯人の顔は、まだ見ていません。
直したあとなので、もう再現できないのです。先生の端末に翻訳のマークが出ていたかどうかも、確かめていません。手元にあるのは状況証拠だけです。
ただ、その状況証拠は真っ黒です。アプリの中に「点」も「満点」も1件も無く、外側に訳す人がいた。それで全部の説明がつきます。
次にお会いしたとき、「あのとき、翻訳のマークって出ていましたか」と聞いてみようと思っています。
なぜ、これを最優先で直したか
日付が点数に化けるのは、機能が足りないのとは違う種類の問題だからです。
実験手帳は「予定がズレても、準備はズレない」ための道具です。画面に出ている日付が信じられなくなったら、その瞬間に存在意義が消えます。便利かどうか以前に、信じられるかどうか。
9月10日は、9月10日でなければいけません。10点満点中の9点ではなく。
もしよかったらフォローして、小さな会社が事実で信頼を積んでいく過程を、これから一緒に見ていってください。

