こんにちは。みなさんは「物理教員」と聞いてどんな人を想像しますか?そして、自分の高校時代をふりかえって下さい。物理の授業はいかがでしたか?
皆さんの考えていることは分かります。私も星の数ほど同じようなことをお聞きしてきました。しかし、世の中には物理の授業を少しでもわかりやすく面白いものにしようと、忙しい教員生活の中で私生活を削っている先生方もいらっしゃいます。物理は間違いなく面白い学問であり、教え方を工夫すればそれは伝わると考えていらっしゃいます。
1月に私が「XR機器を使った探究型学習」というタイトルで発表した横浜物理サークルは、1988年に発足した物理教員のための研究会で、現在は神奈川に限らず日本中の100名以上の物理教員で構成されています。毎月熱心な情報交換・意見交換がおこなわれています。以下に、その会の例会報告に掲載された文章を、許可を得て転載させていただきました。
授業研究2:XR機器を用いた探究型学習 植田さんの発表
植田さんはMR技術を使った物理教材について発表した。
例会参加者も「VRは知っているし、ARは聞いたことがあるけれども、MRとは?」という人がほとんど。最近はXRという言葉もあるそうだが、聞いたことがある人はほとんどいないだろう。VR(Virtual Reality)「仮想現実」、AR(Augmented Reality)「拡張現実」に対し、MR(Mixed Reality)「複合現実」は一言で言うとVRの外が見えるバージョンのことだ。さらにXR(Extended Reality/Cross Reality)は現実の物理空間と仮想空間を融合させて、実際には存在しないものを現実世界にあるかのように知覚できるようにする技術である。
当日会場ではMRゴーグル(38万円超!)を実際に全員装着して体験した。参加者全員が各自、前の人から後ろの人に回して体験するという感じで進行した。
体験したのは「3Dグラフィティ」というMRアプリ。空間に色のついた曲線を描くことができる。MRゴーグルを装着した人には実際にはない「操作盤」が見え(写真左)、それにタッチするように指を動かして操作ができる。同様に指先を筆のように使って、空間に任意の色で3Dの曲線を描くことができ、首を振ると視界が移ると共に描いた曲線も移動し、まるでそこに本当に曲線が「ある」かのようだ。これに「手応え」や「触覚」が加わったら、現実と同化してしまいそうだ。
植田さんは、このMR技術を使った教材として、Lifeliqe(空間映像図鑑)、Galaxy Explorer(銀河系の空間映像・写真左)、Holoeyes(手術対象の空間映像・写真右)というアプリを紹介してくれた。さらに、理数分野における教材として、Prisms(数学教材)とzSpace(理科教材)の紹介もあった。
例会ではその後、ローレンツ力の教材についてディスカッションした。一様な磁場の磁力線が手を伸ばして直線電流の磁場を引き込んでいき、引き込まれた直線電流の磁場が反対側からはじき出される、そういう動きが非常に直感的に理解できるような教材が作れるはずだと植田さんは主張した。その他に力のベクトル、静電気、音、気体分子運動、運動の分解などが参加者の間で話題になった。
植田さんが経営する会社「フィールフィジックス」ではMR技術に7年前から取り組んでいる。植田さんは、2030年までにMR技術がすべての学校で体験できる日が来ると考え、そのとき、物理を直感的に理解できる教材を提供できるよう頑張っている。「応援頂けると大変光栄です。今後も機会があれば同じような体験を提供したいと思います。」と植田さんは語った。
実際、物理の実験装置は少しずつ改良されています。小さな速さを測る装置はほとんどの学校に導入され、最近はスマートホンを使った実験法も注目を浴び始めています(日本の物理教育界の中心組織である物理教育研究会が主催する実験講習会でもスマホを使った実験が1セクションを担っています。こちらでは私も講師としてお手伝いさせていただきました)。
みなさんのお子さんが高校で物理を習う頃に物理の学習が大幅にわかりやすくなっているかといえば、物理というのは大変抽象的ですから、残念ながらそうはならないでしょう。しかし、みなさんが高校で物理を習ったときとまったく同じ教え方でも、ないでしょう。日々教え方は進歩していますし、先生によっては大変大胆で現代的な教え方をされるかもしれません。
物理の授業に対し、少しご期待いただいても良いのではないかと思います。我々も鋭意研鑽に努めたいと思います。